部下が突然「俺、仕事辞めようと思います。」
私よりも1歳下の部下が、突然深刻な顔で訴えてきた。眉間にしわを寄せてとても険しい顔で対面に座る部下の顔で、瞬時に「覚悟」を感じた。
「俺、仕事辞めようと思います。」
話を聴いてみると、「2人目の子供が産まれる事を機に、もっと家族との時間を大切にしたい」という理由だった。
彼は、20代後半の社員で営業成績は営業所内で常にトップクラス。とにかく仕事が早い。誰よりも時間効率が良く、業務が終わると一早く仕事を完了させて職場を出る。
しかし、彼には労働環境の問題があった。
「通勤が片道1時間」もかかるのだ。
私と彼の職場は朝は遅めにスタートする職場なのだが、どうしても毎晩20時頃に仕事が終わり、帰宅すると21時を過ぎている。彼の1人目のお子様は帰宅したころにはもう寝ている為、仕事の終わりの夜は、子供の寝顔しか見ていないという。さらに、2人目のお子様の誕生を控えている。
私も結婚して子供が2人いる。同じような境遇の為、彼の想いは痛く共感した。仕事と家族を天秤にかけ、彼は非常に苦悩しただろう。
彼に「仕事を辞めるにしても、飯は食っていけないだろう。次、どんな仕事するのか?」と質問すると、「すでに転職サイトで次の候補は見つけています。自宅付近の同業他社です。」という答えが返ってきた。
確かに、今ある優れたスキルをそのまま活かせて、他社であれば丸々応用できるに違いない。営業成績も優秀で業務態度も真面目な為、間違いなく必要とされる人材だ。
実は以前、彼の1人目のお子様が産まれる前に、私よりも立場がさらに上の上長に相談をしたことがあるのだ。彼は「子供が産まれるので妻も大変だから、サポートをしたいので育児休暇等の長期休暇が欲しい」と希望したそうだ。しかし、上長は「そんなに休んだら今の〇〇というポジション(職責)は無くなるよ。」事実上、降格を示唆されていたようなのだ。
降格すると、もちろん権限や職責に対する賃金手当も無くなる。その時、彼は結局育児休暇は取得しなかった。通常通り、フルタイマーとして働き続けた。ただ、今回彼は降格でも構わないという覚悟を決めて、私に相談してくれた。
私は悩んだ。
男性社員でも、育児休暇取得はどうだろうか?
彼が覚悟を決めて悩みを打ち明けてくれた数日後、私も覚悟を持って「育児休暇を取得してみてはどうか。」と、思い切って提案した。
「あなたは素晴らしい仕事が出来るし、それを手本として後輩も優秀な人材に育っている。秀逸な存在。離職して欲しくないし、何より悲しい。会社もあなたを必要としていると思う。しかし覚悟も決まっていると思う。今はゆっくり家族との時間を大切にして、子供が大きくなって家庭が落ち着いたら戻ってきたらいい。」そう話した。
彼と私の会社において、男性社員が育児休暇取得を正式に取得したことはなかった。もし育児休暇取得すると、復帰した後の知識習得やスキルダウンに不安が残る。周囲の目も気になる。心配事はたくさんあった。
しかし彼は、そんな事よりも「家族とのかけがえのない時間」を大切にしたかった。覚悟が決まっていた。
仕事をするのは、豊かな人生を送る為の手段だと私は考えている。彼には部下としてではなく、父親のひとりとして育児休暇取得をすすめた。
しかし、部下は育児休暇を取得しなかった。
彼はしばらく悩んだ後に、こう答えた。
「たしかに育児休暇取得をすれば、家族との時間は十分確保できます。ありがとうございます。しかし、それでは収入が激減してしまう心配があります。なので、育児休暇は取得せずに、やっぱり会社を辞めます。」
育児休暇中の給付金は開始から6か月間は給与の67%、それ以降は給与の50%ほどしか貰えないのだから、収入が減る=生活に支障が出ると考えての判断でしょう。確かに生活の心配が出るのは当然だ。小さな子供と奥様と4人家族になる予定で、収入が大幅に下がってしまうと本末転倒だ。
ここで私にひとつ気がかりなことが浮かんだ。
『新しい職場に転職することで、彼に不利益は出ないのだろうか。』
転職すると中途新人からの再スタートとなる。新しい環境での人間関係の構築、信頼の構築、彼の将来を考えるとハードルがあることに間違いはない。
そこで、私は新たな提案を彼に示した。
「しばらく時間短縮社員として働いてみるのはどうだろうか?そうすれば仕事を早く切り上げて家族との時間を大切にも出来る。夕方から奥様のサポートも出来る。子供との時間もある。家庭が落ち着いたらまたフルタイムで働けばいい。職場も業務内容も一切変わらないから、その後のキャリアアップもあなたなら実現できるよ。また、時間を早めるだけなので給与も大幅に減少する心配もない。」
彼の目は輝いていた。
そして、彼は時短社員となった!
結果として彼は、フルタイム正社員の頃より早く仕事を切り上げる時短社員としての働き方を選んだ。
給与は多少減ってしまうが、家族との時間は十分に確保出来る。また、フルタイム復帰後、スキルロスの心配も少ない。産まれてくる子供と奥様を十分にサポートしながら、仕事する為、彼の希望を叶えることが出来るのではないかと考えた。
「時短社員という考えはありませんでした。その方が、自分にとってデメリットが少ないので、ぜひ時短社員を希望します。」
彼は、時短社員としての働き方を選択した。そして、現在も彼はイキイキと仕事を続けている。
さいごに
今回のように、「人生の転機」で働き方を見直す方が多くいると思います。
「結婚を機に、固定の場所で安定した仕事を求めたい。」とか、「子供が産まれるので、家庭との両立を実現できる働き方を実現したい。」とか。
しかし、「会社」という組織はなかなか家庭の事情を加味してくれないのが現状ではないでしょうか。営利を目的として、社員の能力を十分に発揮できる場所こそ、社員の幸福につながる!と考えている企業は少なくありません。
現に、私と部下の勤めている会社もそのような思想で人事が行われています。
先述した通り、仕事は豊かな人生を送る為の手段のひとつでしかありません。
仕事を主体と考えて、あなた自身の人生を狂わせてしまう必要はどこにもありません。
もし、今あなたが現在の働き方に疑問を感じているのであれば、私は迷わず転職してあなた自身の働き方をあなたのライフスタイルにそろえる事をおススメします。
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